バリューとブラフは一緒だよという話

ポーカー初心者へのよくあるアドバイスとして、「そのベットはバリューベットか、ブラフベットか意識しましょう!」というのを聞いたことはありませんか。これはアクションに明確な意図を持たせるという意味では良いアドバイスですが、ある程度勉強したプレイヤーがこれをそのまま受け取ると、ポーカーの成長を邪魔しかねないと考えています。

というのも、ベットやレイズという行為はどちらも例外なく同じ目的のために行うものであって、バリューとブラフという言葉はそれを簡略化したものに過ぎないためです。

多くの人は、バリューベットは勝ってるハンドで相手からコールしてもらうために打つ、ブラフは自分より強いハンドをフォールドさせるために打つと二元的に考えていて、ちょっと勉強した人はレンジCBなどのバリューともブラフとも言い難いベットを例外として覚えていると思います。これはポーカーを誤解しています。

この記事は、「何当たり前なこと言ってるんだ」となるかもしれませんが、人によっては大きな気づきになるかもしれません。

なぜバリューベットもブラフベットも本質的には同じなのか

「バリューベットってなんですか?」と聞かれた時、あなたはなんと答えますか?

実はこの問いに対する答えを正確にできる人はあまり多くないと思います。

よくある回答として、「自分より弱いハンドにコールしてもらうために行うベット」というのがあります。これはバリューベットの説明としては間違ってはいないと思いますがもう少し掘り下げてみます。

強いハンドとはなんでしょうか?リバーでナッツを持っており、100%のエクイティがある時は間違いなく強いハンドと言えるでしょう。それが70%の場合はどうでしょうか?強そうですね。51%の場合はバリューベットでしょうか?

ブラフベットはどうでしょう。「自分より強いハンドにフォールドしてもらうためのベット」でしょうか?

ではエクイティが51%あるハンドを持っており、相手を下ろしたいと思ってベットした場合、これはブラフベットと言えるのでしょうか?

実際は相手のハンドは見えないので、より複雑になるでしょう。

このようにバリューとブラフの概念というのは、実は曖昧なものです。

ポーカーの本質はポットを大きくして利益を得るか、相手をフォールドさせて利益を得るかの二つだけです。そしてそれは相手や自分がドローイングデッドでない限り、常に併存しています。

ここで一つ例を見てみましょう。

BTN対BBのAK6r(典型的なポラライズスポット)でBTNが125%のCベット、BBコール、ターンは5sが落ちたとします。

AKoを見てみましょう。GTO Wizardは125%や75%ベットを打ちます。

この場合、ハンドによって多少の差はあるものの、AKoの相手のレンジに対するエクイティは92.2%です。

このハンドはポットを大きくすることによって得られる利益の割合が非常に大きいでしょう。しかし、これでも相手は7.78%エクイティがあります。このベットで得られるフォールドエクイティはほとんどありませんが(BBは均衡上はドローをフォールドしない)、相手は少なからず僅かなエクイティを放棄します。

例えばスペード以外のT6sやJ6sはフォールドしますが、もしかしたらリバーで6が出るかもしれません。これほど極端な「バリューベット」でも相手のエクイティをごく僅かに奪っています。

大雑把な手計算

このことさえ分かってればいろんなシチュエーションを大雑把に手計算できます。

幾つか条件を絞ってそれっぽいシチュエーションを計算してみましょう。

BTNとBBのレンジはフロップまで大体GTOと同じにしてポットは20BBとします。ターンでの125%ベットに対するBBのレンジをライブキャッシュにたまにいるカチコチなおじいちゃんに変えて考えてみます。

詳細条件

  • ドローはナッツフラッシュドロー以外フォールドする
  • ATsより弱いハンドは全部フォールド
  • レイズはしない(めんどくさいけどする場合も計算できます)
BBのフロップのコールレンジ
Qd2dのエクイティは5.12%
equilabを使用

条件の通り、ターンのBBのレンジは以下とします。

BBのコールレンジ
Qd2dのエクイティは0%
BBのフォールドレンジ
Qd2dのエクイティは7.43%

完全にトラッシュハンドのQd2dを持っているとしましょう。

BBのこのコールレンジに対するQd2dのエクイティは0%です。そのため相手がコールした場合、

(20BB + 25BB + 25BB) x 0% – 25BB – 20BB x 5.12% = -26BB獲得します。

相手がフォールドした場合、BBのフォールドレンジに対するQd2dのエクイティは7.43%です。そのため相手がフォールドすると、20BB x 92.57%=18.5BB獲得します。

コール頻度は46/150、フォールドは104/150なので(コンボ数間違えてたらすみません)それぞれに掛けると

-26BB x 47/150 + 18.5BB x 104/150 = 4.7BB

つまりQs2sは125%ベットによって4.7BBほどプラスになりそうです。
(※これはある意味EVですが、ポーカーで一般に使われるEVではありません。あえてEVという言葉を使うなら、私はチェックを基準(EV0)にしたい)

これを他のサイズの場合と比較することで適切なアクションを探します。これはリバーを考慮していないので、必要であれば追加要素を足していきます。

今はノードロックなど便利な方法が沢山あるので、このような手計算をする機会はあまりないかもしれません。しかし、「やろうと思えばざっくり手計算してそれっぽい答えを出せる」ことは必要だと思いますし、それが実戦での「センス」につながると考えています。

まとめ

この記事で私が言いたいのは、ベットにはバリューの要素もブラフの要素も少なからずあるということです。ポーカーはポットを大きくして利益を得るか、相手をフォールドさせて利益を得るかの二つだけです。これはテキサスホールデムに限らず、オマハでもショートデックでも同じです。

アクションを選択する際は、相手のレンジに対してエクイティはどのくらいあるか、フォールドエクイティはどのくらい見込めるかをベットやレイズサイズ別に仮定して、それがチェックやコールに対してどの程度利益的かを考えると良いでしょう。

ここで紹介したことは、あくまでハンド対レンジでしかなく頻度も考慮していないので、レンジ対レンジで考えるGTOの基本的な学習方法から見ると物足りなく見えるかもしれません。しかし、ポーカーを上手くなる上で欠けてはならない要素だと私は考えています。

また、通常エクスプロイトはGTOからの乖離で考えますが、相手に一定以上のリークがあったり、レンジを大きく刈り込むことができる場合、こうした手計算での導出の方が実戦的です。